高校卒業後すぐ、比較的方言の近い関西に引っ越した川人。
通っていた大学の共通語は『標準関西弁』(文章は標準語、イントネーションは関西)だったので、それにならうことにしました。
同郷の友人達もそうなのですが『〜やけん』や『〜じょ』などの特徴的な語尾だけ早急に直し、イントネーションや単語は徐々に関西弁にしていくという戦略。
3年ほどそうやって過ごし、言いたいことは不足なく伝わるので、「わたしってばすっかり関西弁マスター」などと思っていたある日、友達に言われてしまいました。
友「前から気になってたんやけど…あんたその『立ちって』って、やっぱり『立って』って意味なん?」
川「立ちって、って言わへんの!?」
彼は、立ちって発言した。
立ちって食べたら危ないよ。
違和感ないって!標準語だと思ってたし、むしろこのほうがなんとなく表現としてしっくりくるって!『立って』より『立ちって』の方が、スタンディング感あるって!
ごねてみても、むなしく。
今日の記事は県外の人にはなんのことやらだと思いますが、ぜひ注釈なしで、想像力を働かせてお楽しみください。
かように、使用頻度が高くないうえに、わりと伝わってしまうがゆえに誰もつっこまず、残ってしまった阿波弁。
他に『さし』『しよい』、また『むつこい』なんかも、なんとなくニュアンスは伝わっていたので、スルーされていたらしいのです。
さらには、『たるびゃあ』の『びゃあ』は直したけれど『たる』のほうも方言だとは気づかず、『たるほど』と使っていた、など、2つ以上組み合わせたハイブリッド系阿波弁。
『お風呂まける』は直したけれど、トイレに間に合わなかった時の『まける』は標準語だと思っていた、など、汎用性が広く色々な意味に訳せる阿波弁。
そして、徳島出身者を全国区で悩ませる阿波弁No.1(川人調べ)!絶対王者に君臨する、
『いける?』
県外に出て行った友達同士、数年後の集まりで出てくる話題といえば「『いける?』って聞いたら、『どこに?』って返された」ですね(川人調べ)。わたしもいまだに『大丈夫?』とか、大仰な感じがして、できれば『いける?』と使い分けたい。
それら阿波弁の残り香を、またじわじわと関西弁に置き換えていき、今度は、仕事を円滑にするための京都弁を覚えていき、それで10年ほど過ごしました。
さて、それが『ぞめきのくに』の脚本執筆となった時、まるきり逆の現象が起こってしまいます。
阿波弁、下手になってる。
オーディションの段階から、読み合わせ原稿の阿波弁を、適宜直してくださるようみなさんにお願いしていました。阿呆連の副連長立川さんのセリフでも、「そんな言い方はせんなあ…」「これは関西弁になってしもとるなあ…」という箇所をいくつも直していただきました。
いつも頼りになるリキイチこと犬飼さんですが、比較的方言の近い岡山が長いため、やっぱり、ゆるーくそちら方面に言葉がスライドしています。
そうなると、頼みの綱はもっとも徳島の長い助監督清本さんですが、こちら、一度東京に出ているためか、『ぞめき』チームでは、めちゃくちゃ綺麗な標準語しか喋ってくれないのです。なんでやねん!
また、リキイチ、わたし、清本助監督のあいだでは、微妙に徳島の中でも方言区分が違ったり…!
あたりまえかもしれませんが、同じ阿波弁でも、地域や話者の性格によって、響きや言葉がずいぶん変わります。
脚本家として恥ずかしいものですが、そんな事情にてんやわんやしつつ、地元のみなさんのお力をお借りして、阿波弁パートは撮影できたのでした。
でも、苦しみだけではなく、その中に、もちろん楽しみがあります。
わたしとしては、お気に入り阿波弁はやっぱり『おばちゃん三連星』のところ。野中さん、堀抜さん、遠藤さんが、そういう阿波弁のニュアンスをしっかり演じ分けてくださっていて、大好きなところなのですが…
これ以上はスクリーンにて!
脚本・音楽
川人千慧